大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(オ)1045号 判決

上告人

株式会社中矢組

右代表者

森年次

右訴訟代理人

藤森功

被上告人

中央信用金庫

右代表者

小野孝義

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤森功の上告理由一、1について

不動産の任意競売においては、登記上競売申立人の権利に劣後する抵当権者に対しても、配当要求の有無にかかわりなく順位に従つた配当を行うべきものであるから、右不動産につき右抵当権に優先する仮差押登記が存在し、右抵当権をもつて仮差押をした債権者に対抗することができない場合であつても、そのために右債権者に対する関係では抵当権者は配当要求をしない限り配当を受ける地位を主張することができなくなるわけではなく、単にその被担保債権について仮差押の被保全権利である債権に対し配当上の優先順位を主張することができないこととなるにすぎないと解すべきである。また、右抵当権設定に関する登記が本登記ではなく仮登記にすぎないときでも、その場合には配当の実施にあたつて右抵当権者に配当すべき金額を同人に交付することなく供託すべきものとされることとなるにとどまり、配当自体はこれによつてなんら影響を受けるものではない(最高裁昭和四九年(オ)第一一三一号同五〇年四月二五日第三小法廷判決・裁判集民事一一四号六六一頁参照)。これと結局趣旨を同じくする原審の判断は、正当である。論旨は、独自の見解に立つて原審の右判断を論難し、また、原審で主張しない事実に基づいて原判決の不当をいうものであつて、いずれも採用することができない。

同一、2について

所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、右判断に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告代理人藤森功の上告理由

(法令の解釈に違背がある)

一、第二審の判決は、不動産登記法第二条及び民事訴訟法第六四六条同第六九六条及び競売法の配当表の実施について、解釈を誤りひいては法令に違背したものである。

1 第一審判決に於て、「原告の根抵当権設定仮登記は、被告株式会社中矢組の仮差押登記の後になされたものであるから、右仮差押の効力がなお存続している間に他の担保権者の申立によつて開始された本件任意競売手続において、右各不動産に関する限り原告の根抵当権は仮差押債権者に対してのみならず、右競売手続において適法な交付要求の申立をした被告国及び被告昭島市との関係においてもその効力を対抗することができないものと解すべきであり、競売裁判所としては、原告を登記された担保権者としてではなく、一般債権者として取扱わざるを得ず、従つて、原告は配当要求の申立をしない限り、右不動産の売得金につき当然には配当に加わることを得ないものと解するのが相当である(最高裁昭和三五年七月二七日判決民集一四巻一八九四頁・原審東京高裁三二年五月六日判決)。」と判示した。

しかるところ、第二審の判決理由判断によれば、「控訴人は、……根抵当権をもつて、被控訴人株式会社中矢組に対抗し得ないとはいえ、登記ある不動産の権利者であることには変りはないから、本件任意競売手続においては、当然配当にあずかり得る地位を有するものと解すべきである。(最高裁昭和五〇年四月二五日第三小法廷判決参照)」と法律判断をした。

然しながら、右判断は、本登記ある根抵当権者であることを前提とする判断である。

本件被上告人の有する法律上の地位は、根抵当権設定仮登記権利者であるに過ぎない。「登記ある不動産の権利者」たる法律上の地位にあるか問題である。

仮登記権利者は、不動産登記法第二条に明記する如く、登記申請の手続上の条件が具備しないとき、権利の設定等の保全のため、あるいは始期付または停止条件である実体上不確定なる地位にあるものである。すなわち、被担保債権が本登記手続をなすほどに権利が確定していないことを意味するものである。仮登記権利者は、先づ、自己の有する被担保債権について、本案訴訟手続をなし、債権確定の判決等の執行力ある正本を有することによつて配当要求の申立をしなければ、配当交付にあずかることができないものと解すべきである。何故ならば、仮登記の存在理由と被担保債権の不確定なる事実があるにも拘らず、必要以上に法律上保護する不合理な結果を招くからであるし、また上告人中矢組に対抗し得ない立場にあるからである。この場合の対抗し得ない被上告人の地位は、上告人中矢組が仮差押の効力として、債務者である物件所有者原田電気設備株式会社に対する処分禁止の制限ある意義を有しており、その事実を登記簿上当然知り得た地位にあつたものに拘らず、敢えて根抵当権設定仮登記を了したことによるものであつて、被上告人がなした右仮登記をもつて、「登記ある不動産の権利者」として上告人に主張し得ないことを意義するものと解すべきである。

然るに、原審判決は、本件根抵当権仮登記権利者である被上告人の地位を「対抗し得ないとはいえ、登記ある不動産の権利者であることには変らず、本件任意競売手続においては、当然配当にあずかり得る地位を有する」と判断した。その内容はどうして仮登記権利者が本登記手続または債権確定の手続を得ずに当然に配当交付にあずかるのか全く不可解である。

もし、右の事実が認められるとすれば、対抗し得ない登記ある仮差押債権者の後に、次から次へと仮登記を了することによつて、全ての仮登記権利者は、原審の判断どおり当然に配当にあずかる地位を有することになり、競売裁判所は、仮登記の実体上の判断を得ないで全て按分により配当交付せざるを得ないことになる。

仮登記は本登記と異なり、不動産について容易に登記手続がなされることは経験則上明らかであり、特に、会社の倒産にともなつて、倒産後において一方的に仮登記手続をなされているのが実情であり、これらの社会経済事情からみても仮登記のまゝで「当然に配当にあずかる地位を有する」と判断したことは社会的に思考しても合理性がない。

この点、原審判決は、「株式会社中矢組に対抗できないことを前提として、控訴人は一般の無担保債権者と同様の地位にあり配当要求の申立をしない限り、配当にあずかることはできない旨主張するが、強制執行手続においてはともかく任意競売手続においては右主張は採用し難い」旨判示した。然し、前述したような事由に加え、何故に強制執行と任意競売手続において差異が生ずるのか判然としない。仮登記権利者の法律上の地位及び上告人に対抗できないとする法律上の意義を解明するとき、前述の通り、任意競売であつても全く異なるところがない。要するに、強制か、任意競売かによつて取り扱いを異にするものではなく、仮登記権利者の法的地位と対抗できない実体上の内容を法的に検討を要するところであり、その法律上の意味が前記した通りであつて、仮登記者は、一般債権者と同様に執行力ある正本によつて配当要求の申立をしない限り、不動産の売得金につき、当然には配当に加わることを得ないものと解すべきである。この意義において、前記した第一審判決の判断が正当であると思考する。

本件配当要求債権である金五、六〇〇、二〇七円也についての債権内容は、被上告人が提出した債権計算によれば、債務者原田電気設備株式会社振出しにかかる約束手形三葉の債権である。しかも、明白のように、額面金四、五四七、〇〇〇円也の内、残金一、二〇〇、〇〇〇円と額面金四、九四〇、〇〇〇円也の内、残金一、〇〇〇、〇〇〇円也及び額面金三、〇〇〇、〇〇〇円也である。これらの債権は、名宛人兼第一裏書人北山木材株式会社が被上告人との金融取引によつて割引した残債権である。従つて、被上告人との当該信用金庫取引約定による直接の取引当事者は、第一裏書人北山木材(株)との間でなされたものであつて、本件不動産の所有者である原田電気設備(株)との間でなされたものでない。被上告人は、債務者原田電気設備(株)との間で真実手形割引、その他貸付等の取引約定をなしたうえ根抵当権設定契約をしたものでなく、単に右原田電気設備(株)が倒産した後に、過去において第一裏書人兼債務者北山木材(株)に交付した印鑑証明書及び白紙委任状をあることを奇貨として根抵当権設定仮登記を了したものに過ぎないものであつた。そのうえ被上告人は、債権計算書作成した昭和五四年四月二八日以降において、債務者北山木材(株)から右約束手形金の割引債権の弁済を受けており、残債権額が減額されているものであるからして、その点の実体上の判断が必要である。これはまさしく債権の確定と根抵当権の内容の本案訴訟による確定を実体上必要とする事由である。単に、一方的な計算書によつて配当異議訴訟において判断すべき事柄ではない。〈以下、省略〉

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